『エドワード・ヤンの恋愛時代』4Kレストア版の雑記。日本と台湾で最も有名なエドワード・ヤン作品は違う?

カルチャー

権利関係が複雑でスクリーンでの鑑賞が長らく不可能だった獨立時代(邦題:エドワード・ヤンの恋愛時代)が、2022年にベネチア国際映画祭に4Kレストア版で出品され、東京国際映画祭でも上映され、日本でも話題に。

▲『エドワード・ヤンの恋愛時代』が4K修復されたことを報じる台湾のニュース映像(2022年9月)。

妻

渋谷TSUTAYAにレンタル1本の

絶滅危惧種だったのに!

実は数年前「もう2度と見れないかも…」という危機感から数万円はたいてDVDとパンフを購入しました。ですので、修復された4Kレストア版をスクリーンで見れるなんて夢のようです。

今回は、実際に4Kレストア版を見てきた感想DVD発売情報について、覚え書きとして残しておこうと思います。

スポンサーリンク

エドワード・ヤン、今年は特に盛り上がる予感

4Kレストア版上映や回顧展開催

『エドワード・ヤンの恋愛時代』の4Kレストア版は、2023年8月から日本公開されることが決定しました。(TOHOシネマズシャンテや新宿武蔵野館ほか)

台北では2023年7月から「一一重構:楊德昌」と題してエドワード・ヤン監督の回顧展&特集上映が開催されます。

2023年は台湾でも日本でも、エドワード・ヤンが盛り上がること間違いなしです。

▲『エドワード・ヤンの恋愛時代』4Kレストア版予告映像

スポンサーリンク

追記:4Kレストア版を見てきた感想

新しい字幕翻訳に驚いた

2023年夏、ついに『エドワード・ヤンの恋愛時代』4Kレストア版を劇場で見てきました!DVDですり切れるほど見ていますが、やっぱり良かったです。

映像はもちろん綺麗になっており、背景のぼんやりしたところまで鮮明になっていて感動したのですが、なんと言っても驚いたのは字幕翻訳でした。

妻

これほど作品の印象が変わるとは

冒頭の論語の引用からすでに1994年版とはかなり違う表現になっており、分かりやすく明快になっていました。翻訳者は樋口裕子さんという方で、これまでも中国語作品を多く手がけられています。

1994年版の字幕はどことなくぎこちなさ、直訳っぽさが残り、良い意味でも悪い意味でも作品の核心部をつき辛い、余白のようなものが残されているという印象でした。

あまりにも気になったので調べましたら、1994年当時の字幕翻訳者は遠藤寿美子さんという方のようで、洋画の翻訳も多数手がけられた方のようでした。(あくまでインターネットで調べただけで、裏はとれていません。)

昔は「中国語→日本語」の翻訳家が非常に少なかったらしく、「中国語→英語」に翻訳した物を、さらに別の翻訳家が「英語→日本語」に和訳することも結構あったと聞いたことがあります。当時の遠藤さんもこの方式だったのかな?と勝手に妄想(あくまで勝手な推察です)。ただ、遠藤さんは他にも中国語映画をいくつか手がけられているので、英語も中国語もどちらもできる翻訳者だった可能性もあります。

・・・真相はわかりませんが、そもそも時代によって翻訳が読み辛くなるケースは当然ありますし、時代に合わせてブラッシュされるのはとても良いことだと思います。

今回の4Kレストア版で字幕が分かりやすく明快になったことで、キャラクターの心情や作品に込められたメッセージをくみ取りやすくなった気がしますし、どことなくコメディ要素も強まった気がしました。

4Kレストア版のDVD/Blu-rayが出たら、見比べて楽しもうと思います。

左が1994年のパンフ。右が2023年のパンフ

スポンサーリンク

追記:DVD/Blu-ray発売について

Blu-ray 届きました!(2024年4月追記)

名シーンがパッケージに(2024年4月追記)

Amazonではすでに予約開始

Amazonですでに4Kレストア版のDVD &Blu-rayの予約販売が開始しています。お届けは4月になるようです。

左が1994年版DVD。右が2023年版Blu-ray (2024年4月追記)

スポンサーリンク

4K修復されたエドワード・ヤン作品

2010年代以降、次々に修復

2015年に『恐怖分子』がデジタルリマスター版となって19年ぶりに劇場公開されたことを皮切りに、エドワード・ヤン監督の生誕70年(没後10年)となる2017年に『青梅竹馬(邦題:台北ストーリー)』が4Kデジタルリストア版となり劇場初公開したことは記憶に新しいです。

2017年には『牯嶺街少年殺人事件』もデジタルリマスター修復されました。『牯嶺街少年殺人事件』も日本では初上映から25年間ソフト化されず、観る機会がほとんどなかった作品です。

死後数十年経ち、こうしてひとつひとつ権利関係が整理されたり、デジタル修復されたりして作品をより多くの人が見れるようになるのは、本当に素晴らしいですね。

妻

次は『麻將(邦題:カップルズ)』の番だ!

スポンサーリンク

そもそもエドワード・ヤンとは?

エドワード・ヤン監督の主な監督作品 ※()内は邦題

・1982年 光陰的故事
  ※新人監督4名によるオムニバス作品の第2話「指望」
・1983年 海灘的一天(海辺の一日)
・1985年 青梅竹馬(台北ストーリー)
・1986年 恐怖分子
・1991年 牯嶺街少年殺人事件
・1994年 獨立時代(エドワード・ヤンの恋愛時代)
・1996年 麻將(カップルズ)
・2000年 一一(ヤンヤン 夏の想い出)

上記の作品を手がけ、2007年に59歳の若さで死去された映画監督です。

2023年7月から開催されるエドワード・ヤンの回顧展「一一重構:楊德昌」では、亡くなる間際まで手がけていた未完成のアニメーション作品『追風』に関する貴重な展示もあるのが嬉しいです。

ちなみに、長編1作目(実質的なデビュー作)である『海灘的一天(邦題:海辺の一日)』は日本未公開です

以前、侯孝賢がプロデュースしている映画複合施設「台北之家」のショップで『海灘的一天(邦題:海辺の一日)』のDVDを販売していました。しかし、もう廃盤らしいので手に入らなくなるかもしれません。

スポンサーリンク

日本と台湾で有名な作品は?

日本で最も有名な作品

はっきりとは言い切れませんが、おそらく日本で(世界でも)最も知られている作品は遺作の

一一(邦題:ヤンヤン 夏の想い出)

かと思います。

2000年のカンヌ国際映画祭でも監督賞を受賞した作品です。

台湾タイトル『一一(漢字の1を2回)というタイトルの意味についてです。

以前、早稲田松竹のロビーの壁に貼ってあったエドワード・ヤンの昔のインタビュー記事にいろいろ書いてありました。確か「1と1は足しても2にはならず、ただそこにあるもの。取るに足らないものだ。」みたいな監督の発言が書かれていた気がするのですが、分かったような分からんような感じで家路についた覚えがあります。(インタビュー記事の参照元は失念しましたので、ご参考程度に…)

「一」は家族(または、もっと広い意味で共同体)の1人1人を指し、互いに自分だけの過去や記憶、自分だけの視点があり、決して足して「2」になるようなことはないけれど、「一一」のように、ただそばにいる、そんな家族(共同体)の形をこのタイトルは示しているのかなと自分なりに解釈してみました。が、真実は分かりません。

台湾で最も有名な作品

しかし、台湾で最も知られている作品は『一一(邦題:ヤンヤン 夏の想い出)』ではないようです。

台湾人に会うたびに、自己紹介で「我愛楊德昌的電影!(私はエドワード・ヤンの映画が大好きです!)」と言っていた私。

すると大体の台湾人が、

『牯嶺街少年殺人事件』なら見たことあるよ

と言うのがお決まりでした。

牯嶺街少年殺人事件は60年代の台湾で起きたセンセーショナルな少年少女の事件を題材にしているので、台湾人にとってとっつきやすいのと、当時少年だった主演の張震(チャン・チェン)が今ではあまりにも有名な俳優さんなので、おそらく台湾では知名度が高いのかなと勝手に思ってます。

この作品も4Kレストア版になった際にスクリーンで拝見しましたが、画面の隅々まで美しく、演者の研ぎ澄まされた動きやセリフから目を離せず、4時間近くの長い上映時間、この美しさと緊張感を保つことが可能なのか…と驚いたことを覚えています。(日本で劇場公開された当時は3時間8分版を上映。4Kレストア版上映時は、当初バージョンである3時間56分版を上映。贅沢!)

デジタルリマスター版上映の際には、かなり話題になっていました。

スポンサーリンク

台湾好きになるきっかけをくれた

私個人の話にはなりますが、エドワード・ヤン監督の映画を見ていなければ「あの映画の中の世界(台湾の街)に行ってみたい」と思って何度も台湾に行ったり、語学留学しようとも思わなかったでしょうし、いまの生活は全然違うものになっていました。

台湾や台湾の人々を、最も美しく、かっこよく、物憂げに、それでいて温かく描いた最高の映画監督だと個人的には思います。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)や李安(アン・リー)の初期作品も大好きですが、やっぱりエドワード・ヤン監督の作品は見る度に驚かされます。

▲ちなみに、先日台湾で購入したエドワード・ヤンについての書籍『再見楊德昌』です。

『再見楊德昌』の作者、王昀燕さんは1982年生まれで、私と年齢が近くて驚きました。私と同じようにリアルタイムで見れなかったエドワード・ヤン作品も多い世代です。

この書籍の初版である2012年版は自主出版されたそうで、王昀燕さんは相当な熱意でこの書籍をつくられたんだと感動しました。

2020年にコレクターズエディションとして布張りの赤い装丁で復刊された豪華版が今回買ったものです。(自主出版時は資金が足りなくてハードカバーにできなかったらしい。)

こういうものを発見すると、エドワード・ヤンは、国を超えて世代を超えて愛さ続ける監督なんだなぁと改めて実感します。

▲台北の映画複合施設「台北之家」のショップでも販売していました。在庫があれば買えると思います。

▲ちなみに、私は新竹市の映像ミュージアム兼映画館である「影像博物館(或者光盒子)」で購入しました。(もう在庫はないかもしれませんが・・・)