2023年の年明けのニュース。台北で「一一重構:楊德昌」と題して台湾の巨匠 エドワード・ヤン監督の回顧展が開催されることが発表されました。

参照元:https://www.tfam.museum/Exhibition/Exhibition_Special.aspx?ddlLang=zh-tw&id=734

気合い入ってるらしい

我々も気合いを入れて情報をお届け!
2023年、エドワード・ヤン監督回顧展「一一重構:楊德昌」
どんな展示?
今回「一一重構:楊德昌」と題して行われるエドワード・ヤン監督の回顧展。
エドワード・ヤン監督が残した様々な記録や文章を、プロジェクトチームが3年の歳月をかけて整理したそうです。ヤン監督の創作における核心部分を5つのテーマにわけ、監督独自の美学や精神世界を体現する展示となっているそう。
今回、初めて世の中に出る資料や、日本ではめったにお目にかかれない、監督が映画と並んで力を注いだ演劇関連の展示まであるそうです。
監督の生涯にわたる創作の軌跡の全貌を目の当たりにできる、大規模な展示になる模様。かなり期待できます。
開催場所は?
「一一重構:楊德昌」は台北駅から地下鉄で15分ほどの場所にある臺北市立美術館の開館40周年記念のメインとして開催されます。

参照元:https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/747
今回の回顧展「一一重構:楊德昌」は、臺北市立美術館と國家電影及視聽文化中心が共同で主催しており、臺北市立美術館の王俊傑館長と國立臺北藝術大學の孫松榮教授が共同でキュレーターを務めているそう。
臺北市立美術館は日本人に人気の中山エリア(有名な朝市もある所)からも近いので、観光がてらにも行きやすい場所です。
開催期間:2023.07.22-2023.10.22
場所:臺北市立美術館(1A・1B展覽室)
特集上映も同時開催!
特集上映イベントの予告映像解禁
「一一重構:楊德昌」の展示を行う臺北市立美術館から少し離れた場所ですが、共同主催の國家電影及視聽文化中心でも、全く同じ期間中にエドワード・ヤン監督の特集上映が行われます。

予告編が解禁された

泣ける予告編だ…
自身の作品に加え、影響を受けた10作品も上映
上映作品は大きく3つのセクションに分かれています。
エドワード・ヤン監督作品に加え、1992年にイギリスの映画協会が発行した「Sight and Sound」という雑誌に掲載された、いわゆる “エドワード・ヤンが選ぶ映画史のトップ10” も併せて上映される予定。エドワード・ヤン監督が映画を志すきっかけとなった作品も上映されます。
また、1993年に是枝裕和監督がつくったエドワード・ヤンと侯孝賢(ホウ・シャオシェン)のドキュメンタリーも特別上映として上映されます。
台湾のアート系ニュースサイトを確認したところ、上映プログラムは下記のようです。(2023年6月22日時点/公式サイトには未掲載)
上映作品一覧
1.エドワード・ヤン監督作品
『一九零五年的冬天』1981(脚本・製作助手)
テレビドラマ『十一個女人』第1話「浮萍」1981
オムニバス映画『光陰的故事』第2話「指望」1983
『海辺の一日』(海灘的一天)1983
『台北ストーリー』(青梅竹馬)1985
『恐怖份子』1986
『牯嶺街少年殺人事件』1991
『エドワード・ヤンの恋愛時代』(獨立時代)1994
『カップルズ』(麻將)1996
『ヤンヤン 夏の想い出』(一一)2000
『追風』2002-2005
2.エドワード・ヤンが選ぶ映画史のトップ10
『アギーレ/神の怒り』1972 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
『ブルーベルベット』1986 監督:デヴィッド・リンチ
『時計じかけのオレンジ』1971 監督:スタンリー・キューブリック
『8 1/2』1963 監督:フェデリコ・フェリーニ
『浮雲』1955 監督:成瀨已喜男
『マンハッタン』1979 監督:ウディ・アレン
『アメリカの伯父さん』1980 監督: アラン・レネ
『ノスタルジア』1983 監督:アンドレイ・タルコフスキー
『切腹』1962 監督:小林正樹
『ラルジャン』1983 監督:ロベール・ブレッソン
『L’Argent(金)』1928 監督:マルセル・レルビエ
3.特別上映
『映画が時代を写す時 侯孝賢とエドワード・ヤン』1993 監督:是枝裕和
『鉄腕アトム 宇宙の勇者』1964 監督:手塚治虫
※『原子小金剛(鉄腕アトム)』表記でしたが、1964年とあるので劇場版第1作目の『鉄腕アトム 宇宙の勇者』かと。詳しく知りたい方はご確認を。

『一九零五年的冬天』『十一個女人』『海辺の一日』『追風』の上映は、かなり貴重だと思います
特集上映の場所は?
國家電影及視聽文化中心で行われます。
この施設は2022年に開館したばかりで、台湾の歴史的価値のある映画を修復したり、数々のアート系作品を上映している文化的施設だそうです。
回顧展を開催する臺北市立美術館からは少し離れますが、台北駅から電車で30分ほどの距離なのでアクセスはそこまで悪くないです。
開催期間:2023.07.22-2023.10.22
場所:國家電影及視聽文化中心
せっかく台北に行くならロケ地巡りもオススメ
『ヤンヤン 夏の思い出』結婚式会場
ちなみに、臺北市立美術館からタクシーで10分以内の場所に『一一(邦題:ヤンヤン 夏の思い出)』のロケ地にもなったホテル「圓山大飯店」があるので、もしまだ行ったことがなければ、セットで行くのもおつかもしれません。
圓山大飯店は日本で例えると帝国ホテルのような、台北で最も格式の高いホテルです。ロビーを見るだけでも価値あり!な内装です。
ヤンヤンが女の子達にいじめられてるシーンのカットと同じような角度から撮影してみました。

念のためホテルに問い合わせましたが、宿泊しなくても誰でもロビー見学は自由です!
『ヤンヤン 夏の思い出』マンションおよび高架下
作品後半に悲惨な結末を辿るリーリーの元彼が、彼女をけなげに待ち続けた高架下です。
地下鉄(MRT)の「台電大楼駅」から徒歩5分ほどの場所です。撮影に使われたマンションも、本当に渡ってすぐの所にあります。
20年以上前ですし、もう様変わりしてしまっている部分も多かったですが、なんとか見つけました。作品をよく見ると元彼の足下のレンガの所にスプレーの落書きで「58」と書かれており、草をめくると、見つけました!

これは本当に感動した…!
渡ってすぐの所に舞台となったマンションもあります。映画では近距離の設定でもカットが変われば全然別の場所でロケすることも多いですが、マンションも高架下も、すごくリアルな立地でした。
※もしマンション前に行く場合には、住民の方々が大勢おられるので、ご迷惑にならないように、くれぐれもご注意ください。
『ヤンヤン 夏の思い出』ヤンヤンが通う小学校
こちらの小学校も、マンションや高架下からすぐの場所にあります。
この辺りは偏差値の高い学校が多く、治安が良く、教育熱心な台北の富裕層が多く住む地域だそうです。作中のティンティンも優秀な高校に通う女子高生という役柄。ロケ地の選定ひとつとっても、エドワード・ヤン監督のこだわりが感じられました。
『エドワード・ヤンの恋愛時代』のロケ地、まだある?
ちなみに、以前『エドワード・ヤンの恋愛時代』のロケ地にも行ってみましたが、さすがにもう90年代以前のロケ地巡りは厳しいのかも…。

これは残念だったね

でも、雰囲気は感じられた!

エドワード・ヤン、今年は特に盛り上がる予感!
『エドワード・ヤンの恋愛時代』のデジタル修復
エドワード・ヤン監督の回顧展開催に関しては、権利関係が複雑でスクリーンでの鑑賞が長らく不可能だった『獨立時代(邦題:エドワード・ヤンの恋愛時代)』が、昨年2022年にベネチア国際映画祭に4Kレストア版で出品されたり、東京国際映画祭でも上映されて、日本でもにわかにざわつき始めていた頃の嬉しいお知らせでした。
おまけにこの『エドワード・ヤンの恋愛時代』、2023年8月から日本の映画館で公開されるというニュースが!(TOHOシネマズシャンテや新宿武蔵野館ほか)
台湾でも日本でも、盛り上がること間違いなし。

渋谷TSUTAYAにレンタル1本だけの、絶滅危惧種だったのに…!
数年前、『エドワード・ヤンの恋愛時代』は権利関係のクリアが難しいというのを知り「もう2度と見れないかも…」という危機感から数万円をはたいてDVDとパンフを購入して手元に置きました。
修復された4Kレストア版をスクリーンで見れるなんて、本当に夢のようです。監督の奥様や関わった方々に本当に感謝です。

これはこれで、大切にします!
次々と修復されていくエドワード・ヤンの作品たち
2015年に『恐怖分子』がデジタルリマスター版となって19年ぶりに劇場公開されたことを皮切りに、エドワード・ヤン監督の生誕70年(没後10年)となる2017年に『青梅竹馬(邦題:台北ストーリー)』が4Kデジタルリストア版となり劇場初公開が実現したことは記憶に新しいです。(一足先の2016年に東京フィルメックスでも上映)
2017年は同じく『牯嶺街少年殺人事件』もデジタルリマスター修復されました。『牯嶺街少年殺人事件』も日本では初上映から25年間ソフト化されず、観る機会がほとんどなかった作品です。
死後数十年が経ち、こうしてひとつひとつ権利関係が整理されたり、デジタル修復されたりして作品が多くの人の目に触れること(何より、自分もスクリーンで見れる!)、本当に嬉しいです。

次は『麻將(邦題:カップルズ)』の番だっ!
そもそもエドワード・ヤンとは?
エドワード・ヤン監督の主な監督作品 ※()内は邦題
・1982年 光陰的故事※新人監督4名によるオムニバス作品の第2話「指望」
・1983年 海灘的一天(海辺の一日)
・1985年 青梅竹馬(台北ストーリー)
・1986年 恐怖分子
・1991年 牯嶺街少年殺人事件
・1994年 獨立時代(エドワード・ヤンの恋愛時代)
・1996年 麻將(カップルズ)
・2000年 一一(ヤンヤン 夏の想い出)
上記の作品を手がけ、2007年に59歳の若さで死去された映画監督です。
今年の回顧展 「一一重構:楊德昌」では、死ぬ間際まで手がけていた未完成のアニメーション作品『追風』に関する貴重な展示もあるのが嬉しいですね。
ちなみに、長編1作目(実質的なデビュー作)である『海灘的一天(邦題:海辺の一日)』は日本未公開です。
以前、侯孝賢がプロデュースしている映画複合施設「台北之家」のショップでDVDを販売していました。しかし、もう廃盤らしいので手に入らなくなるかもしれません。
日本で最も有名なエドワード・ヤン作品は?
はっきりとは言い切れませんが、おそらく日本で(世界でも)最も知られている作品は遺作の『一一(邦題:ヤンヤン 夏の想い出)』かと思います。カンヌ国際映画祭でも監督賞を受賞した作品です。
台湾タイトル『一一』(漢字の1を2回)というタイトルの意図は、以前、早稲田松竹のロビーの壁に貼ってあったエドワード・ヤン監督の昔のインタビュー記事にいろいろ書いてありました。(インタビュー記事の参照元は失念しましたので、ご参考程度に…)
確か「1と1は足しても2にはならず、ただそこにあるもの、取るに足らないものだ。」(全然違ったらごめんなさい)みたいな監督の発言が書かれていた気がするのですが、分かったような分からんような感じで家路についた覚えがあります。まんまと監督の術中にはまった気がしてならないのは、私だけでしょうか。
台湾で最も有名なエドワード・ヤンの作品は?
しかし、台湾で一番知られている作品は『一一(邦題:ヤンヤン 夏の想い出)』ではないようです。
台湾人に会うたびに、自己紹介で「我愛楊德昌的電影!(私はエドワード・ヤンの映画が大好きです!)」と言っていた私。すると大体の台湾人が「あ~『牯嶺街少年殺人事件』は見たことあるよ」と言うのがお決まりでした。
『牯嶺街少年殺人事件』は60年代の台湾で起きたセンセーショナルな少年少女の事件を題材にしているので、台湾人にとってとっつきやすいのと、当時少年だった主演の張震(チャン・チェン)が今ではあまりにも有名な俳優さんなので、おそらく台湾では知名度が高いのかなと勝手に思ってます。
この作品も4Kレストア版になった際にスクリーンで拝見しましたが、画面の隅々まで美しく、演者の研ぎ澄まされた動きやセリフから目を離せず、4時間近くの長い上映時間、この美しさと緊張感を保つことが可能なのか…と驚いたことを覚えています。
(日本で劇場公開された当時は3時間8分版を上映。4Kレストア版上映時は、当初バージョンである3時間56分版を上映。贅沢!)
デジタルリマスター版上映の際には、かなり話題になっていました。
「台湾好き」になるきっかけをくれた映画監督
私個人の話にはなりますが、エドワード・ヤン監督の映画を見ていなければ「あの映画の中の世界(台湾の街)に行ってみたい!」と思って台湾に通ったり、語学留学しようとも思わなかったでしょうし、私のいまの生活は全然違うものになっていました。
台湾や台湾の人々を、台湾史上最も美しく、かっこよく、物憂げに、それでいて温かく描いた最高の映画監督だと個人的には思います。台湾なら、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)や李安(アン・リー)の初期作品も大好きですが、やっぱりエドワード・ヤン監督の作品は見る度に驚かされます。
おまけ
先日台湾に行った際に購入した書籍『再見楊德昌』です。新竹市の映像ミュージアム兼映画館である「影像博物館(或者光盒子)」で発見しました。
『再見楊德昌』の作者、王昀燕さんは1982年生まれで、私と年齢が近くて驚きました。私と同じように、リアルタイムで見れなかった作品も多い世代です。
この書籍の初版である2012年版は自主出版されたそうで、相当な熱意だったと感動しました。
2020年にコレクターズエディションとして、素敵な布張りの赤い装丁で復刊された豪華版が、今回買った書籍です。(自主出版時は資金が足りなくてハードカバーにはできなかったらしい)

本当にかっこいいデザイン!
監督が残した作品を後になって見て、国籍も世代も越えて、こうして次々と「ヤン狂」が生まれていくのが面白いですね。